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宇都宮地方裁判所 昭和55年(ワ)57号 判決

原告

小林慎一

ほか一名

被告

黒崎肇

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金二五一一万〇八〇七円及び内金二四一一万〇八〇七円に対する昭和五二年一二月二七日から、内金一〇〇万円に対する本判決確定の日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告らは、原告に対し、各自五〇九一万三〇八四円及びこれに対する昭和五二年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生及び被害

原告は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)によつて傷害を受けた。

(一) 発生日時 昭和五二年一二月二六日午後三時四〇分ころ

(二) 発生場所 宇都宮市塙田四丁目五番七号先道路

(三) 加害車両 普通乗用車(栃五五ら五四三四号)

運転者 被告黒崎美津子

(四) 被害車両 自動二輪車(栃ま七九七七号)

運転者 原告

(五) 被害者 原告(当時一七歳の男子、宇都宮工業高校二年在学中)

(六) 事故の態様 被告黒崎美津子は、加害車両を運転して前記道路上を進行中、道路左側駐車場に入るため左折しようとした際、その左側を並進していた原告運転の被害車両の右側ポイントカバーに加害車両の左前部を接触させ、被害車両をして左前方路端の街路樹及び道路標識に激突させた。

(七) 傷害の部位・程度

(1) 左腸骨骨折

(2) 左肩甲骨骨折

(3) 肋骨骨折

(4) 左母指環指切断

(八) 入院期間 昭和五二年一二月二六日から昭和五三年三月一五日まで(栃木県済生会宇都宮病院)

(九) 通院期間

(1) 昭和五三年三月一六日から昭和五四年八月二四日まで(同病院)

(2) 昭和五四年九月一二日(北里病院)

(一〇) 後遺症の部位・程度

(1) 左母指環指切断

(2) 左肩運動障害(前挙五五度、側挙四〇度、後挙三五度)

(3) 骨盤変形

2  責任原因

(一) 被告黒崎肇は、加害車両を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから自賠法三条による責任がある。

(二) 被告黒崎美津子は、駐車場に入るため左折するに当たり、並進車両の有無及びその動静を注視し、進路の安全を十分確認したうえで左折すべき注意義務があるのにかかわらず、これを怠り、突然左折を開始し被害車両の直前を進行した過失によつて本件事故を発生させたのであるから、民法七〇九条によつて原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。

3  損害

(一) 治療費 一一五万三七七五円

(二) 付添看護費 一七万七〇〇〇円

昭和五二年一二月二六日から昭和五三年二月二二日まで五九日間、一日当たり三〇〇〇円

(三) 入院雑費 五万四〇〇〇円

昭和五二年一二月二六日から昭和五三年三月二五日まで九〇日間、一日当たり六〇〇円

(四) 通院通学費用 七万七四九五円

(1) 昭和五三年三月から同年五月までタクシー代 四万七三七〇円

(2) 同年五月、六月バス定期券代 五七六〇円

(3) 同年七月バス回数券代 三〇〇〇円

(4) 同年九月から昭和五四年三月まで通学バス代 一万二〇〇〇円

(5) 北里病院交通費 九三六五円

(五) アルバイト休業損害 一八〇万円

(1) 昭和五二年一二月二六日(事故発生日)から昭和五四年三月三一日(高校終了時)まで一五箇月間、宇都宮ジヤスコパート勤務、平日一六時から一九時まで、土曜日一四時から一九時まで、日曜祭日九時から一九時まで、月額平均四万円、合計六〇万円

(2) 昭和五四年四月一日(東京デザイン専門学校入学時)から昭和五六年三月三一日(同校卒業時)まで二四箇月間、一月当たり五万円、合計一二〇万円

(六) 後遺症による逸失利益 四六〇五万四七〇四円

賃金センサス産業計男子労働者学歴計企業規模計平均賃金年額二一九万八四〇〇円、年間賞与六一万六九〇〇円、合計二八一万五三〇〇円に、前記後遺症(第六級障害)の労働能力喪失率六七パーセントを乗じて得た金額一八八万六二五一円に、原告が前記専門学校を卒業する二〇歳(昭和五六年四月一日)から平均稼働年齢六七歳までの四七年間のホフマン式係数二四・四一六を乗じて得た金額

(七) 慰謝料 九〇〇万円

本件事故のため原告は、前記加療を要する苦痛を受け、かつ学校の長期欠席により学力低下を余儀なくされ、そのうえ前記後遺症が残存するところとなつた。入通院分の慰謝料として一五〇万円、後遺症分の慰謝料として七五〇万円を相当する。

(八) 弁護士費用 二〇〇万円

合計 六〇三一万六九七四円

4  損害のてん補

(一) 自賠責保険(傷害) 一〇〇万円

(二) 同(後遺症) 七五〇万円

(三) 被告らの一部弁済 九〇万三八九〇円

合計 九四〇万三八九〇円

残額 五〇九一万三〇八四円

5  結論

よつて、原告は被告らに対し、各自、損害賠償金五〇九一万三〇八四円及びこれに対する本件事故の日の翌日である昭和五二年一二月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、(一)ないし(六)及び原告が受傷したことは認めるが、その余は知らない。

2  請求原因2の事実は認める。

3  請求原因3の事実のうち、(一)は認め、その余は知らない。

4  請求原因4の事実は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生及び被害

1  請求原因1の事実のうち、原告が本件事故によつて負傷したこと及び(一)ないし(六)については、当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第一号証によれば、請求原因1の(七)の事実が、成立に争いのない甲第二号証、原本の存在及び成立について争いのない第五ないし第八号証によれば同(八)の事実が、それぞれ認められる。

3  請求原因1の(九)の事実について判断するに、原告が昭和五三年三月一六日から昭和五四年三月二八日まで、栃木県済生会宇都宮病院に通院していたことは、前掲甲第六ないし第八号証によつてこれを認めることができるが、その余の通院の事実について証拠が全くない。

4  前掲甲第二号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第九号証によれば、請求原因1の(一〇)の事実を認めることができる。

二  責任原因

請求原因2の事実については、当事者間に争いがない。

三  損害

1  治療費 一一五万三七七五円

原告の本件事故による傷害の治療費用として右金員を要したことについては、当事者間に争いがない。

2  付添看護費 一七万七〇〇〇円

原告法定代理人小林照子尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、前記傷害により手が自由にならなかつたため、介助を要し、原告の母親が昭和五二年一二月二六日から昭和五三年二月二二日までの五九日間付き添い看護したことが認められ、その費用としては、一日につき三〇〇〇円とするのが相当であるから、結局、原告は、一七万七〇〇〇円の損害を被つたことになる。

3  入院雑費 四万八〇〇〇円

原告の入院期間は前記認定のとおり八〇日間であり、原告の受傷の部位、程度及び当時の物価事情に鑑みれば、原告主張のように一日につき平均六〇〇円を下らない諸雑費を要したであろうことが推認できるから、右費用の合計は四万八〇〇〇円と算定される。

4  通院通学費用 六万八一三〇円

原告法定代理人小林照子尋問の結果によると、原告は、本件事故前は自転車で通学していたことが認められ、原告の症状に鑑みれば、通院・通学に際し、タクシーあるいはバスを利用する必要があつたことは明らかであり、そして弁論の全趣旨によれば請求原因3の(四)(1)ないし(4)記載の金員を支出したと認められるが、(5)についてはこれを認めるに足りる証拠はない。

5  アルバイト休業損害 四三万五六一五円

(一)  原告本人及び原告法定代理人小林照子の各尋問結果を総合すると、原告は昭和五一年一〇月ころから本件事故当時までジヤスコ株式会社宇都宮店においてパートアルバイトを継続していたこと、本件事故当時高校二年在学中(この点は当事者間に争いがない。)であり、事故がなかつたならば以後高校卒業時までこれを継続する予定であつたのに本件事故によつてこれがまつたくできなくなつたこと、右アルバイトは本人の高校の学費を賄うためであつたことがそれぞれ認められるところ、原本の存在及び成立に争いのない乙第一、第二号証によれば、昭和五二年二月から同年一二月の間に月平均三万三四三四円(円未満切捨)の給与を得ていたことが認められるから、他に特段の事情の認められない本件にあつては、原告は、本件事故がなければ高校卒業時までの一五箇月間、少なくとも一月あたり三万円の収入をあげえたものと推認することができ、これに反する甲第三号証の一ないし一九は、単に原告の推定額を記載したものにすぎないから採用できない。よつて、本件事故による休業期間中に失つた得べかりし収入は四五万円と算定される。

これを、原告の求める遅延損害金の起算日たる昭和五二年一二月二七日に一時に受けるものとして、月別ホフマン計算法によりその価額を求めると、四三万五六一五円となる。

算式 3万0000×14.5205=43万5615

(二)  請求原因3の(五)の(2)の事実については、これを認めるに足りる証拠はない。

6  後遺症による逸失利益 二四六三万二一七七円

前掲甲第二号証、第九号証、証人浜野恭之の証言、原告本人及び原告法定代理人小林照子の各尋問結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告は昭和三五年一二月一六日生れの健康な男子で本件事故当時宇都宮工業高校インテリア科二年に在学中であつたこと(原告が宇都宮工業高校二年在学中の男子であつたことは当事者間に争いがない。)、昭和五四年三月に同高校を卒業してデザイン専門学校に進み昭和五六年三月にその過程を終えたこと、後記のような不利な状況にあるけれども、あくまで初心を貫きインテリア関係の仕事に就くことを希望していること、前記後遺障害は自賠法施行令別表の第六級に該当すること、特に左肩運動障害によつて原告の日常生活及び学業に重大な支障を生じたこと、更に原告がその希望する室内インテリアの仕事に就く場合に、右後遺障害により将来にわたつて、原告は健康な成人に比較して相当の不利益を被り、それを克服するためには多大の努力を要するであろうことが予測されることがそれぞれ認められ、右後遺障害に基づく労働能力の喪失は相当程度のものに達することが推認される。他方、前掲各証拠によれば、右後遺障害は利き腕である右手右腕の操作には全く支障のないこと、原告の知的能力への影響は考えられないこと、左肩運動障害については、僧帽筋の左肩関節部への移行手術を施すことにより左腕の前挙及び側挙が九〇度位まで回復する可能性のあることがそれぞれ認められ、更に原告は未だ若年であることを考え合わせれば、今後の努力、機能訓練、職業の選択その他の事情により、右後遺障害の職業生活への影響を多少なりとも減少させることができると推認される。

経験則に照らせば、原告は、専門学校卒業時の昭和五六年四月一日から六七歳に達するころの昭和一〇三年三月三一日まで四七年間にわたり稼働して、この間その労働に応じた収入を得ることができたものと推認することができるところ、右認定の各事実及び前記後遺障害の内容を勘案すると、原告は昭和五六年四月一日から昭和六一年三月三一日までの五年間は平均してその労働能力の六五パーセントを喪失し、同年四月一日から昭和一〇三年三月三一日までの四二年間は平均してその労働能力の五〇パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。ところで、原告が本件事故にあわなかつた場合、原告が右稼働可能期間中に得べかりし年収益は、昭和五六年四月一日から五年間は、昭和五四年賃金センサス第一巻第一表による産業計・企業規模計・男子労働者・高専・短大卒・二〇歳から二四歳までの平均年収額である一八一万八七〇〇円を、その後は右センサスの全年齢平均年収額である三四二万七七〇〇円をそれぞれ下らないものと推認するのを相当とする。

そこで、以上に基づいて、ライプニツツ方式によつて年五分の中間利息を控除のうえ、原告の逸失利益の本件事故時の現価を算定すると、二四六三万二一七七円となる。

算定

(1)  (13万0000×12+25万8700)×(6.4632-2.7232)×0.65=442万1259(円未満切捨)

(2)  (21万9200×12+79万7300)×(18.2559-6.4632)×0.5=2021万0918(円未満切捨)

7  慰謝料 七〇〇万円

原告の前記傷害の部位・程度、治療経過、後遺症の部位・程度その他本件弁論の全趣旨を総合して勘案すると、原告に対する慰謝料は、傷害及び後遺症の両方に対するものとして合計七〇〇万円と認めるのが相当である。

8  弁護士費用 一〇〇万円

本件弁論の全趣旨によれば、原告は、被告らが請求原因4の(三)の一部弁済額以外にその被つた損害の賠償に応じないため、本件訴訟進行を原告訴訟代理人に委任していることが認められ、この事実に本件審理の経過、事案の難易度、請求額、認容額その他諸般の事情を考慮すれば、弁護士費用としては一〇〇万円の限度で本件事故と因果関係のある損害と認めるのが相当である。

四  損害のてん補

右各損害の合計は、三四五一万四六九七円となるところ、原告が自賠責保険金八五〇万円及び被告らから九〇万三八九〇円の合計九四〇万三八九〇円を受領したことは、当事者間に争いがないから、右賠償請求額からこれを差し引くと二五一一万〇八〇七円となる。

五  結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求は、被告ら各自に対して二五一一万〇八〇七円及び弁護士費用を除いた内金二四一一万〇八〇七円に対する本件事故の日の翌日である昭和五二年一二月二七日から、内金一〇〇万円(弁護士費用相当額)に対する本判決確定の日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 赤塚信雄)

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